F.kosakai 記録 2016.08.28 「じぶんのまわり展」@茅ヶ崎市美術館

2016.08.28 「じぶんのまわり展」@茅ヶ崎市美術館

こういうと関係者に怒られるかもしれないが、実に拾い物の展覧会だった。小家人2号の夏休みで見せたい展覧会があったのだが、勘違いですでに1週間前に終了していたことが判明。さてどうしたものかと思案しているときに、家人が偶然この展覧会を検索で発見。触ってもオッケーという展示なら小家人2号も喜ぶだろうし、そもそも茅ヶ崎に美術館があるとは思わなかったので行ってみることにした。

行ってみると、そう大きくはない公園(たぶん旧御屋敷だった敷地と思料する。)の一角にあった。美術館としてはかなりこじんまりとしているが、なかなか瀟洒な作りでいい雰囲気だ。

入場すると、すでに受付の横に台にたくさんの石が貼り付けられたものが展示されている。触ると、石ごとに違うフレーズが流れてくる。要はサンプラーなんだけど、同時にいろんな石を触ることで即席の曲が演奏できる。もう、この段階でいろいろと楽しい。

この展覧会、“アーティストやデザイナーのためのエンジニアとして活動する久世祥三と、グラフィックデザインサウンドインスタレーションの制作を行う坂本茉里子で2009年に結成したユニット”であるMATHRAXによるもの。正直、こんな面白い、自分の感覚と共鳴することをしている人がいるとは知らなかった。
http://mathrax.com/

受付を通って最初に入った部屋にあったのは、ぶら下げられたいろんな形をしたボード。床に指定した場所に立つと、光や音が変化する。
そして、隣のスペースにあったのは何か円柱を途中で切ったようなオブジェ。この天辺を撫でると音が鳴るのだが、触る場所によって音が変化する。

地下の会場に写って入った部屋にあったのは、一見普通の住宅にもありそうな照明用スイッチを埋め込んだボードの数々。これが触ったり、横のボードを叩くと灯りがつくのだが、その強弱やいじり方で灯りが変化するのである。

最後の部屋には、少し大きめのテーブルに数個の動物をかたどった置物があった。この置物の背中をさすると、これも涼しげな音が出てくるのである。さらにこのオブジェ、隣に置いてあったオブジェと連動していて、香りが放出される。その香りも二つ合わさると、また別の香りに変化するらしい。視覚、聴覚に加えて嗅覚にも働きかけるアートというのはちょっと斬新だった。技術協力が資生堂というのも唸ってしまった。なるほど、香りのプロフェッショナルであるよな。
この展示で不思議に思ったのは、音が出るオブジェのセンサーが金属製ではなかったこと。木のオブジェを触ると、触る部分によって音階が変わったりするが、こういったセンサーは人間の電気抵抗を利用してセンシングをするので、大概が金属製だ。なのに、石や木?のような電気の伝導性の低い物質を使って、どうしてこのようなことができるのか?電子工作に手を染めた人間としては気になったところ。

こういった身体感覚と直結し、その変容をテーマにしたアートというのは、40年前なら大仰な「前衛芸術」としての意匠をまとって語られただろう。しかし、ナムジュンパイクも亡くなって10年たった2016年、こうした手法はもはやポピュラーでカジュアルな存在であり、それ自体は意匠となり得なくなっている。MATHRAXはこうした手法を場合によっては商品という形(展示された作人の一部は雑誌「大人の科学」の付録として発売された。MATHRAXは二人のユニットであると同時に、二人が設立した会社の名前でもある。)で日常に浸透させようとしている。こうした実践は実に素晴らしいことだと思う。

アートとテクノロジーの関係の歴史を紐解けば、NHK電子音楽スタジオにける塩谷宏をはじめとするエンジニアたちや、タージマハル旅行団における林勤嗣など、テクノロジー自体がアートの成立、リアリゼーションに大きく関与した例は枚挙にいとまがない。今回のMATHRAXもその系譜につながるのではないか?
「いやいや、それとかつての前衛芸術の苦難の道程を一緒にしてはいけない。」という“前衛おじさん”の怨嗟も聞こえてきそうだ。久世氏が1999年、坂本氏が2008年、それぞれ芸術系の大学を卒業しているとのことだが、そのキャリアの差が面白い。エンジニアリングでそれなりのキャリアを積んだ久世氏と、アートのカジュアル化の真っただ中を生きてきた坂本氏が、新たな展開としてのユニット結成ととらえると、それも、アートのカジュアル化という大きなトレンドを巻き込みながらのテクノロジーとアートの関係の構築という流れの継承、なんじゃないか。「前衛芸術」という宣言の時代が終わり、それをどう実践していくのかが問われるようになった21世紀を生き抜くこと。そんなことを感じた。

それにしても、茅ヶ崎という有名だけど決して大きくはない自治体の美術館がこんな面白い企画をやるなんて、日本も捨てたもんじゃないな、と思った。運営も大変だと思うけど、これからも頑張ってほしいと思う。

開催は2016.9.4、明日まで!湘南の海を散歩するついでにふらっと立ち寄ってもいいかも。
http://www.chigasaki-museum.jp/


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2016.08.28 「じぶんのまわり展」@茅ヶ崎市美術館にて。
音を出すと、隣のオブジェから香りが流れてくる。


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